「白」を描く

私は季節の中で一番夏が好きだ。 夏生まれのせいもあるだろう。学校が夏休みに入っているため、友人に盛大にお祝いしてもらえない事だけが残念ではあったが、夏を、太陽を独り占めしているような、なんだか誇らしい思いを常に抱いて夏休みを過ごしていた気がする。

写真を撮るようになって、自分の記憶の光をふと思い出したとき一番に浮かぶのが、キラキラ光る太陽が真っ直ぐに自分に向かって差し込んでくる景色だという事に気づいた。パーッと放射してくる光の一粒一粒が自分の身体に吸い込まれることで、一瞬で自分が生まれ変わるような恍惚とした気持ちが味わえる、だから夏が好きなのだ、と。

そんな私が、秋を迎えたとき、光のない世界を描きたくなった。 正確に言えば、光があるかないか・・・西日が落ちた後の薄暗い部屋の片隅で、光を探しながら無性に「白」を描きたかった。

それは時に自分自身の肌であり、カーテンのレースであり、鏡のデコラティブなフレームであったり、様々だった。 これまで描いていた瑞々しさ溢れる色彩を放つ絵からは想像出来ないような、モノクロームの世界がそこにあった。

こうした私の変化は、自分自身でも不思議であったがその時は深く考える事なく、自分の感じるままに描き続けた。今、振り返って思うと、あのとき初めて私はグレーを知った。白か黒かしかない世界で生きていた私が、この世の中に存在するグレーを初めて受け入れた瞬間だったのかもしれない。

グレーは、また別のグレーを生み出す。 偶然に偶然が重なり、グレーにグレーが重なり・・・ そうして私が本当に描きたかった「白」が生まれたのだった。

明日は立秋。この秋に、私はどんな「白」を描くのだろう。